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血だらけだった。

着たことのないセーラー服を私は着ていて、私も斜め前の席の彼女も教室の自席にきちんと座っていた。まわりの子もみんなおんなじように座っていた。全員クラスメイトなのに、私の友達は彼女だけだった。彼女を仮にAと呼ぶ。

Aの椅子の下に転がった真っ赤なかたまりがだんだん白くなる。引きかえみたいに、椅子の縁からぽたぽたとパータイ色の液体が落ちてAの影を潰していく。

なめらかに広がった水たまりがどろりと煮詰められ、赤錆と緑青が浮く。白くなったかたまりがそのぬかるみを吸って、また赤くなる。

とっってもちんけな真っ赤ね!!

と私は頭の中で唾を吐く。

Aから滲んだ液体がまた椅子をつたっていく。さっきよりもゆっくり…ゆっくり……

くしゃんっ!

くしゃみをして、からだが震え、目線があがる。

彼女は彼女の形のまま、黒板の真ん中についたチョーク入れの底、で固まった石灰みたいなかたまりになった。白でもピンクでも青でも緑でもオレンジでもない、あのみょうちきりんで底抜けに明るくってハッピーな掃き溜め。Aの頭の先からぽろぽろ崩れて、Aの影を潰すぬかるみを覆っていく。まるで化粧するみたいに。ああ、そっか…この色どっかで見たと思ったら、エレガンスの粉の色だ……あ、Givenchyもこんなんだっけ……。ものすごく悲しいのに、私はなぜ悲しいのかさっぱりわからなかった。どちらに怒っているのかわからなかった。どちらにも、が曖昧でないのかもしれない。

ねえ、A。あなたのこと忘れたくないな。

届け物の最中、ふと考える。

なんか、私は身体と戦いすぎじゃないか?

私は身体に負けたくない。これは確かである。しかして、周りを見渡してみると、身体とわりと穏やかに共生できる人がたくさんいる……。生得のものなのだろうか?そんなことないと思うのだけど。

焼かれるまでは一緒にいるんだよなあ…。身体に片想いしているみたいだ。