2022 4月某日

 

 

「えっと、できれば、その……わたしのつくったものに影響されてほしくない、というか」

 

ほう

「感想をもつ、とかは当然自由なんですけど。考え方が変わったとか、見方が変わったとかはいやで……。そんな力があるとも思っていませんが。誰かにとってはあるかもしれないじゃないですか。万一を想像してしまう」

 

誰かが何か見聞きした時点でそれは無理では……

「ええと、まあそれは、そうですよね。影響ゼロは厳しいですよね、たぶん……」

 

じゃあ、どうして……

「あの……!あ、すみません、遮って」

 

かまいませんよ

「増えた、なら嫌じゃないなって」

 

考え方とか見方とか

「ええ。もっというなら、こういう人もいるんだなあ、くらいの距離がほしいんです。たぶん。歩いてたらなんか拾ったみたいな。川でなんか流れてきたみたいな」

 

それはどうして?

「自分が影響を受けやすいからですかね。とても、わかりやすく」

 

わかりやすく、というのは?

「例えば、よく聞いてるラジオパーソナリティの口癖がうつるとか、親の実家に帰省するとそっちの訛りがうつるとか。小説を読んでいると主人公の精神?メンタル?に引っ張られるとか」

 

ああ、確かに。話し方がいつもと違うときありますよね、二週間とか一ヶ月とか

「そう、らしいんですよね……。中高生くらいのときは、自分が本当に思っていることなのか、フィクションで誰かが言っていたり思っていたりしたことなのか、わからなくなってしまったことがあって。それって怖いな、と。まあ、いまだにわかりやすく影響されているんですが」

 

怖いから、自分のつくったもので誰かがそうなってほしくない、ということですか

「はい。たぶん」

 

なるほど。そんな思いの中で、つくることをされていますけどそれはどうしてですか。

「ああ、それはけっこう単純で。定期的、ではないか。……タイミングを見計らってつくる……わたしの場合はもっぱらかくことですね。これをしてあげないと、泣いちゃうんですよ」

 

泣いちゃうっていうのは?

「実際に涙が出るという意味でも、そうでない意味でも」

 

……私はなにも作っていなくても泣かないですね。

「うらやましいです」

 

その、どうして泣いてしまうんでしょう?

「感じたこと、感じていること、考えたこと、考えていること、日々あるわけじゃないですか。それが処理しきれないと、泣くというところにたどり着いている気がします。積み重なって処理しきれないこともありますし、何かできごとがあってそうなることもあります」

 

なるほど。何かできごとがあったとき、というのは私もわかるかもしれません。誰かに話すとスッキリするような感じでしょうか

「近いと思います。そう、話すことができるといいんですよ。でも、話すとなると時間の縛りがあるじゃないですか。推敲とかできないし。次から次へとあれこれ考えちゃうから、あれ、やっぱりこうだったかもっていうのもよくあるんですよね。それに何より……」

 

何より……?

「話す、には相手が必要なので。あまりまとまっていない話、はまだよくて。わりと暗いとか重いとか言われそうなこと、あとは性癖とかそういうことばっか考えてるので。そういう話をね、ひたすらしていたら関わってくれる人間いなくなりますから」

 

性癖……

「それ以上聞かないでください」

 

暗いとか重いとかいうのは?

「ああ、暗いとか重いっていうのはわたし自身はあまり思っていないんですけど。小学生のときにできたことができなくなったのはなんでだろう、とか。うーん、あんまりいい例じゃないな。しょっちゅう考えているのは、なにを愛していてなにを疎んでいるか、とか」

 

なにを愛していて、なにを疎んでいるか。それは重そう……

「あ、やっぱり重いんですか、これ」

 

重たいと思います。少なくとも私はそうしょっちゅう考えないです

「そう。こういう話をしょっちゅうされたら絶対疲れるでしょ。わたしも自分が考えていることだから重いと感じないだけで、人のそういう話を毎日聞いていたらしんどくなると思います。少なくともわたしはそういう人に毎日関わっていられない。生の話し言葉ってやっぱり強いし、ただでさえ頭の中忙しいのに、もっと考えること増えちゃいそう」

 

確実に疲れます。相手を慮っているから、かく、という行為に落ち着いているということなんですね

「もちろん、そういう部分がないわけじゃないです。でもそれは割と後付けで副産物的な部分ですね。さっき言ったように、時間的な自由度があるし、何より気楽なので。話すときには目の前の相手を傷つけないように、とかそういうことを気にかけなきゃいけなかったりしますし。自分の考えたことを整理したり吐き出すのに生身の人間を頼ることにも抵抗ありますし」

 

今も気にしてますか

「あー、多少は」

 

多少、ですか

「多少、ですね。あ、今思いついたこと話しても?」

 

どうぞ

「ありがとうございます。つくったものに影響されてほしくない、というか影響されて変わってほしくない的なことを言った気がするんですけど」

 

言ってました

「ですよね。ええと、それにも関わらずかいたものを放流している、公共の場におっことしている理由が見えた気がして。……結局、期待しているんですよ。ああ、あなたはこういうものをもっているんだねって言われたら超ハッピーだし。それで、私はこういうのもってるんだけどどう?ってなったらもっと楽しい」

 

コミュニケーションですね

「まさしく。……あー、でもやっぱり、なにも関わってほしくないしわたしのもんでもないっていうこともあるから100%そうとは言い切れないかも。わたしのものはわたしのもので共有したいなんて思ってない!って言うわたしいるし。それすらかかないと泣いちゃうからかくしかない時もあるんですけど……ああ、またテキトー言ってしまった。だから話すのは向いてないんですよ……」